伝統の舞台装飾継ぎ10年 坂井のまるおか子供歌舞伎

大阪・道頓堀の劇場「中座」から舞台装飾を譲り受けた旧丸岡町(現・坂井市)の「まるおか子供歌舞伎」が、10年目を迎える。20、21両日に披露する記念の演目は、赤穂浪士の敵討ちを題材にした「仮名手本忠臣蔵」。旗揚げ公演の頃は生まれていなかった小さな役者も含む15人が、中座の破風を頂く舞台で名作に挑む。

 日が暮れるころ、市立磯部小(同市丸岡町上安田)の旧体育館に三味線の音と太夫の声が響き始める。15日、1年ぶりに組み立てられて姿を現した舞台の上で、浴衣に足袋姿の小中学生が扇子を操り、すそをさばいて「松の間」や討ち入り決意などの場面を稽古(けいこ)した。本番まで、稽古は毎日続く。

 松竹から譲られた中座の緞帳(どんちょう)や書き割りに囲まれた体育館の床に、宿題のドリルと書き込みされた台本が広がる。稽古の合間に夕飯を食べ、夜8時9時にランドセルを背負って帰る――。そんな光景が旧丸岡町の深秋の恒例になって10年がたった。

 中座(大阪市中央区)は江戸時代、大坂歌舞伎の中心として栄え、戦後は松竹新喜劇藤山寛美らが活躍したが、1999年に閉館した。翌年、かつて町内にあった芝居小屋「霞座」の復元をめざす丸岡町に装飾品一式がやってきた。客席や桟敷席の欄干から楽屋にあったスタッフの日誌まで数千点。とりわけ舞台の上に据えられた屋根のような「破風」(全長約18メートル)は、格式ある劇場にしか許されなかったといい、2000年12月、同小の旧体育館に再建して披露された。由緒ある道具を活用しようと始まったのが、子供歌舞伎だった。

 「初めは浴衣でワークショップ、というつもりで公演まで考えていなかった」と、丸岡町文化振興事業団事務局長の大廻政成さんは振り返る。しかし、松竹の水口一夫さんを招いた稽古は次第に熱が入り、01年秋、本物の衣装とかつらをつけた公演に結実した。

 床山も化粧も美術も、プロばかり。大廻さんは「公演が決まってからは本物志向でやってきた。この光り輝く破風のために」と振り返る。中座で演出を手がけたことがある水口さんも「ここに来ると、いつも破風を眺めるんです。劇場をはっと思い出す。中座が少しよみがえったような気がするんです」という。装飾を譲り受けて2年後の02年、旧中座は火災で焼失した。

 10年間、市民らでつくる「丸岡歌舞伎物語」が運営を担い、毎年訪れる常連客や、パンフレットに広告を出し続ける企業が後押ししてきた。

 今回はOBの中学生も出演。主役の大星由良助、高師直を演じる金津中3年、篠崎光希さん(15)は「舞台はぞくぞくする。お客さんの心に残る公演にしたい」。お軽(七段目)役の磯部小6年、島田侑奈さん(11)は「みんなが知ってる特別な作品なので頑張りたい」と話す。

破風を頂く舞台で稽古する子供歌舞伎の役者たち=坂井市丸岡町上安田
asahi.comより