未来への飛翔 山崎直子さん宇宙へ 物資輸送を指揮

宇宙飛行士の山崎直子さん(39)が米スペースシャトルで宇宙へ出発する日が来月五日に迫った。今回の飛行の目的は国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶこと。山崎さんはロボットアームを操作し、物資輸送の責任者として作業を指揮する。ISSでは野口聡一さん(44)が長期滞在しており、日本人同士が初めて宇宙で対面する。一方、シャトルは年内の退役が決まっており、山崎さんは日本人最後の乗組員となる。 (榊原智康)

 日本人女性の宇宙飛行は向井千秋さん(57)以来、十二年ぶり。向井さんはシャトルで二度飛んだが、「搭乗科学技術者」として科学実験を担当。山崎さんは、シャトルの運用に直接携わる「搭乗運用技術者」として乗り組む。

 飛行期間は十四日間。山崎さんは二日目に、シャトルのロボットアームとカメラ付きの検査用延長アームを使って機体表面の損傷状況を点検。三日目にISSに到着し、野口さんとの宇宙でのツーショットが実現する。

 物資輸送では「レオナルド」と呼ばれる円筒形貨物コンテナ(全長六・四メートル、直径四・六メートル)を活用。中には実験ラックなどの大型機材から、食料や衣料といった日用品まで六トン以上の荷物が積まれている。

 山崎さんはISSのロボットアームでシャトルの貨物室からコンテナを取り出し、ISSに付ける。「コンテナの重さを合わせると十トン以上で、アームでの作業中にいったん揺れだすとなかなか止まらない。ゆっくり慎重に操り、確実に取り付けたい」と意気込む。

 コンテナから物資を運び出す作業で、山崎さんは「物資輸送責任者(ロードマスター)」として乗組員を統率。作業には野口さんも加わる。実験試料や機材などを持ち帰るのも任務で、ISSから二トン以上の物資をコンテナに積み込み、シャトルの貨物室に戻す。

山崎さんは飛行士になる前、ISSの日本実験棟「きぼう」の開発にかかわった経験があり、「宇宙で運用されているきぼうの中に入るのがとても楽しみ」と語る。

 小学生の時から琴を習っていた山崎さん。日本の文化を宇宙から発信しようと個人用荷物として「ミニ琴」を持参する。長さ三十五センチと通常の五分の一サイズで、琴の主要産地の広島県福山市の業者に特注。野口さんは横笛の「竜笛(りゅうてき)」を持ち込んでおり、和楽器による「宇宙合奏」が見られるかもしれない。

 自由時間を利用して、長女の優希さん(7つ)からの宿題にも挑戦する。テーマは「色水で作ったシャボン玉は地上では透明。宇宙ならどうなる?」だ。

 今回のシャトルの乗組員七人のうち、女性は三人で過去最多タイ。ISSの長期滞在員を加えると計四人の女性が宇宙で同時に活動する。向井さんは「宇宙は男の世界のイメージがあったが、だんだん変わってきた。仕事では男女の差より、個人の向き不向きの方が大きい。将来的にはもっと女性が増えていく」とみる。

 日本人のシャトル搭乗は一九九二年の毛利衛さん(62)に始まり、山崎さんは七人目。シャトルはあと四回の飛行を残すのみ。日本人のアンカーとなる山崎さんは「先輩飛行士たちがしてきた仕事の上に今回のミッションは成り立っている。いい仕事をして次にバトンを渡したい」と力を込める。

◆健康を地上から支える「ママ友」の医師・松本さん
 山崎さんの健康を地上から支えるのが「フライトサージャン(航空宇宙医師)」の松本暁子さん(44)。山崎さんと同じ千葉県出身で、お茶の水女子大付属高(東京都)の先輩でもある。飛行中は米航空宇宙局の管制室から毎日交信して体調を確認する。

 研究者でもあり、食べ物の栄養素が宇宙でどう変化するかを調べる実験にも取り組む。試料は山崎さんがシャトルで運ぶ。「体は私が診るから、試料はしっかり運んでねと言ってある」と笑顔を見せる。山崎さんとは十年来の付き合い。二人とも子育てをしながら仕事を続けており「ママ友」でもある。

 「飛行士になって子どもを産んでも、キャリアをあきらめずにやれることを体現している。その姿は地上で働く母親たちに希望を与える。訓練の成果を生かし、全力で頑張って」とエールを送る。


東京新聞より