産経新聞
2020年の東京五輪パラリンピックの開催を日本の伝統的な楽器「和楽器」の魅力を伝える好機と受け止める人がいる。“邦楽界のプリンス”と称されるソロデビュー15周年の尺八奏者、藤原道山(42)と三味線プレーヤー、上妻(あがつま)宏光(41)だ。2人に東京五輪に向けた思いと和楽器の魅力を聞いた。


≪尺八・藤原道山
 ■大切なのは四季の移ろい
東京五輪の開催に向けて和楽器が注目されているように感じます。これは和楽器を知ってもらう好機。日本人にも、もっと和楽器の存在を知らせたい」
 こう語る藤原が愛用している尺八の指穴は5つだけだ。それでも首や指、息の使い方を工夫すると、「さまざまなニュアンスを作ることができる。同じ音は二度と出せないけれど、無限に音を奏でられる。尺八は表現力が多彩。作りはシンプルですが、言葉に近い音色が出せる」と言う。
 日本の特色を生かし、四季を意識した曲の演奏にも取り組んでいる。最新アルバム「季(TOKI)−夏−」(日本コロムビア)には「古今和歌集」を引用した曲「夏の曲」など夏に関連する4曲を収録した。「和歌などの日本文化は四季がベースになっている。四季の移ろいを大事にするのが日本人ということを忘れないでいてほしい、と思いました」邦楽界に新風も巻き起こす。8月24日には、東京・赤坂のサントリーホールで世界的指揮者、山田和樹(36)が率いるオーケストラ「横浜シンフォニエッタ」などと共演する。「和楽器とオーケストラの融合により、新たな音楽が生まれると思います」と力強く語った。

「尺八は奏者の思いが、そのまま伝わる楽器」と語る藤原道山


≪三味線・上妻宏光
 ■伝統を複合的に盛り上げ
東京五輪を機に、邦楽だけでなく、歌舞伎や能など複合的に伝統の世界が盛り上がればよいと思う」
 こう語る上妻は近年、歌舞伎俳優、市川海老蔵(37)が出演する舞台の音楽に取り組む。最新アルバム「伝統と革新−起−」(日本コロムビア)には市川の自主公演「ABKAI 2014」で使用した曲「大蛇(おろち)〜ABKAI〜」などを収録した。制作側からは、観客の「反応が良かった、と言われた。異物が入る良さがあったようです」。
 歌舞伎の伴奏音楽として発展してきた長唄三味線は繊細なメロディーを演奏するのに適する。一方、上妻が弾く津軽三味線は「弦楽器でありながら打楽器のような強さと音色、ビート感が出せる。スタイルが異なる長唄三味線の奏者が快く対応してくれたので歌舞伎の舞台で一緒にできた」。
 「伝統と革新」をテーマに掲げ、10都市を巡るツアー「生一丁!」が7月3日から始まる。一方、8月29日に東京・渋谷公会堂で行う特別公演には歌舞伎俳優の市川猿之助(39)らが出演する予定だ。
 日本文化は共通して「独特の『間』」があるという。「邦楽の『無』の響きは、水墨画の『余白』の美しさに似ている。『間』の感覚は日本語で話すときに身につけていると思う」

「弾いていると自分のくせに合うのが三味線」と語る上妻宏光